『科学ですべて解明できるのか?〜「神と科学」論争を考える〜』

(ジョン・レノックス著 森島泰則訳 2021年2月1日発行)

 

目次

第一章 科学者は神を信じられるのか?

第二章 近代科学の道のり ー ニュートンからホーキングまで

第三章 俗説を正す Ⅰ 宗教は信仰を土台とするが、科学はそうではない

第四章 俗説を正す Ⅱ 科学は理性の上に成り立っているが、キリスト教はそうではない

第五章 科学知識を身につけた現代世界で、聖書を真剣に受け止めることは本当にできるのか

第六章 奇跡 ー 一歩踏み込み過ぎ?

第七章 聖書は信頼できるのか?

第八章 キリスト教を反証するには

第九章 個人的な次元

第十章 実験室に入る ー キリスト教の真実性を検証する 

 

 

数学者である著者は、本書を通して、「科学と神は相容れない」という一般に広まっている考えが間違いであることを示している。

 

これが間違いであることは、ノーベル物理学賞を例に考えるとよく分かる。2013年のノーベル賞は無神論者であるピーター・ヒッグスに送られたが、その数年前はクリスチャンであるウィリアム・フィリップスに送られた。つまり、科学者であることと、クリスチャン(信仰者)であることの間には対立も矛盾もないということだ。

 

では、なぜ人は、「科学」か「神」かの選択をしなければならないと考えてしまうのか。

 

その理由の一つ目は、神の本質に関する混乱である。「科学の進歩によって神は必要なくなった」と人が言うとき、理解できていない空白を埋める存在として人間が作り出した「神」をイメージしている。しかし、聖書の神は、人によって作られた存在ではなく、万物を創造し、支配しておられる神である。ニュートンは万有引力の法則を発見したとき、「引力を理解したから、もう神は必要なくなった」と言わず、むしろ、引力を創造された神のみわざをたたえた。

 

二つ目の理由は、科学的説明の本質に関する混乱である。科学はすべてを説明できるという考え方は間違っている。科学は自然法則を数字で記述できても、それが「実際に何なのか」を説明することはできない。例えば、引力の法則のおかげで、引力の作用を計算して、ロケットが地球の引力圏を抜けるのに必要な時間を割り出すことができるようになった。しかし、引力の法則は、引力そのものが実際何なのかは説明していない。

 

また、科学的説明だけが、唯一可能な理にかなった説明とは限らない。科学的説明と同時に成り立つ合理的な説明が複数存在する場合がある。例えば、自動車のエンジンを説明する場合、物理学的な説明もできるが、ヘンリーフォードが発明したという説明もできる。どちらも合理的な説明であり、ものごとの全体を説明するには両方が必要である。この例を宇宙に当てはめると、宇宙の科学的説明と、神が宇宙を創造したという説明は同時に成り立つし、両方必要だと言える。

 

もしこのように、神の本質と科学的説明の本質を正しく理解するなら、「科学の発達によって神は必要なくなった」とか、「神と科学は相容れない」という考え方にはならない。神と科学の間に、対立は全く存在しない。現実にあるのは、無神論が有神論かという、世界観の対立である。

 

それでも、多くの人は、科学と有神論はうまく調和しないと考えている。しかし、それも誤りである。むしろ、科学と有神論はうまく調和するが、科学と無神論こそ調和しない。

 

まず、前提として、科学は信仰なしには成り立たない。というのは、「宇宙には法則性のある秩序が存在してるため、理性によって理解可能である」という信仰を持たなければ、科学研究はできないからだ。そうなると、科学者たちは、この信仰の拠りどころをどこに求めるのか。どうして、宇宙に法則性のある秩序が存在しているのか。また、その宇宙を理解できる理性が存在するのか。理性が宇宙を創造したのではなく、私たちが理性の力を作り出したのでもない。では、どうして、私たち人間が宇宙の仕組みをほぼ正しく説明できるのか。

 

神を信じているなら、神がそのように宇宙と人間の理性を創造したからだと説明することが

できる。しかし、無神論の立場からだと説明がつかない。無神論の世界観は自然主義であり

、この宇宙しか存在せず、宇宙の構成要素である物質・エネルギーを出発点として、すべての存在するものが、進化の過程を通して作られていったと信じている。そうすると、人間の理性に対する信頼に疑問が生じる。

 

進化論の提唱者であり、『種の起源』を発表したダーヴィンがこう書いている。「私の中には、いつも恐ろしい疑いが浮かび上がってくる。人間の知性は、より下等な動物の知性から発達したものだが、人間に知性があると確信することに何らかの価値があるのか、あるいははたして信用できるのか。」

 

無神論では、理性の有効性の土台が揺らいでしまう。このように、科学と無神論は矛盾を孕んでいる。しかし、科学と神は実にうまく調和している。

 

 

・・・ここまで読んで興味を持たれた方は、ぜひ本を手にとってお読みください。

https://www.kyobunkwan.co.jp/xbook/archives/104479